August 18, 2007

或る寓話

私は、カッフェで呆然となりながらも、
周囲の会話にだけは聞き耳を峙てていました。
手にしていた本に集中する事が出来ず、
字面ばかりを眺めていました。
ああ、人の声と云うものは何てうるさいのだろう
と、他人がとても煩わしいものに思えてきました。

「名詞と云うものは対象を捉えるものです。
言葉は対象に同化し、それに成り代わろうとします。
Je suis や Ich bin もそうでしょう、
そう云う時の一人称は、鋭く"私"と云うものを刺し貫くものです。
ところが、日本語に於いて"私"と言う時には
私と云うものがどこか遠くに在って
まるで彼であるようなものを眺めるように"私"と言うのです。」

誰かの言葉が不意に頭の中に流れ込んできたので
それを聞いた私は遂に怒り心頭となり、
思わず目の前に在る鉛筆を数本ばかり掴んで
床の上に投げつけたのでした。