April 18, 2008

untitled

 今朝、職場へ向かう途中に在る立体駐車場から、ショスタコーヴィッチの音楽が聞こえてきた。私は、驚きと共に、ふと足早な歩調を緩めた。『ピアノ協奏曲第2番』第2楽章だ。楽し気な第1楽章、快活な第3楽章に混じって、この第2楽章は少し寂し気な雰囲気を備えている。
 私は直ぐにこの音楽の題名を思い出す事が出来なかった。流れてくる耳慣れた旋律に耳を澄ませつつ、暫し逡巡した。その間にも、私の傍を一台また一台と自動車が通り過ぎ、螺旋状の通路を駆け上っていく。私の記憶が確信へと至るまでには幾瞬かを要した。それ程までに唐突な巡り合わせだった。
 演奏には幾らか冗長なアレンジが為されていて、私にはそれが苛立たしかった。が、何よりも先ず、市井の傍らでショスタコーヴィッチの音楽に出会えた事が嬉しかった。私は既に、彼自身に依る演奏の録音を耳の奥で反芻していた。聞こえてくる音よりもずっと心地好いテンポ。そのまま最終楽章まで聴いていたかったのだけれど、次に立体駐車場から聞こえてきたのは別の曲だった。
 私は再び緩めていた歩調を戻して、続きの第3楽章を——あの、何度も登り詰め、伸び上がるような、高揚感に満ちた旋律を——大声で口ずさんだ。