April 25, 2008

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 参加チケットを手に入れる幸運に恵まれた為、"TENORI-ON Launch EVENT in Tokyo" に行く。出演者は Paul de Jong(The Books)、To Rococo Rot、Atom Heart、Jim O'Rourke。途中、岩井俊雄氏による TENORI-ON プレゼンテーションが行われた。ステージは4時間程、終演は22:30を過ぎた。出演者はそれぞれにTENORI-ON を用いた演奏を披露した。Paul de Jong は電子チェロと共にサンプラー的に、To Rococo Rot と Atom Heart はリズム・シーケンサー的に、Jim O'Rourke は殆ど TENORI-ON のみで楽器的に使用していた。Jim は機材トラブルに見舞われたのか、肩を落とし項垂れて舞台から去って行った。


 会場にデモンストレーション展示されていた実機を早速触る。操作性は中々良い。ボタン類のクリック感も適度で、操作に合わせて白色LEDが点灯する事もデコラティヴな効果に留まらず直感的な操作を容易にしている。インターフェイスの完成度は高い。
 操作感としては Ableton 社製のソフトウェア "Live!" を想像してもらえると分かり易いだろうか、随分とそれに似ている。TENORI-ON の演奏は、16階層6種類ある「レイヤー」への直接の操作と、「ブロック」と呼ばれる最大16セットのレイヤー群を切り替える事によって為される。 16*16の計256個からなるボタンの並びにより旋律やリズムが発音されるのだが、"美的な光の配置"という意識が演奏者に与える影響は思ったよりも強い。岩井氏曰く「美しい旋律は美しい配列に由来する」とは、彼が TENORI-ON の着想を得た「手回しオルゴール」のパンチカードに見られる穴の配置から導き出した言葉であるが、このことから TENORI-ON に於ける音楽性が"グラフィカルな音の配置"とでも言い得るような、視覚的な操作に大きく依拠している事が伺える。
 ただ、岩井氏が述べるような「電子楽器としての新しさ」については、それ程の革新性があるようにも思えなかった。彼はプレゼンテーションに於いて、独自性を備えた楽器が満たすべき要件として「音色」と「形体」、「操作方法」の3つに個性を備える事を挙げていたが、少なからず音色に関して言えば、それは既存のシンセサイザーと大した違いは無い。また、この点に就いては本人も認めている。楽器とは、操作と発音との間にそれらを必然的に結び合わせる独自の「喉(音色)」を備えたものを指す。それ故にTENORI-ON は、あくまで鍵盤式シンセサイザーの操作性を拡張したものとして捉えられるべきだろう。(確かに、鍵盤楽器とリズム・シーケンサーとを混ぜ合わせたような操作性と、それに付随した諸機能、加えて"音と光の融合"を実現したインターフェイスは、TENORI-ON という楽器が持つ大きな特徴と言える)さらに、本機はMIDI信号のin/out端子を備えているから、Jazz Mutant 社製のインターフェイス "Lemur"(及び "Dexter")と共に、私にとっては寧ろ照明操作の為のインターフェイスとして使用する事への魅力が強かった。

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"Drow Mode" を多用した際、LEDボタンを擦るように使うので、ボタン部の耐久性には疑問を感じる。マルチタッチUI+有機ELディスプレイの組み合わせにより、操作面の耐久性の向上と筐体のさらなる薄型化が図れないだろうか? また、極めてフィティッシュなマグネシウム・ボディには魅力を感じるものの、それ自体は単なる見た目の効果にしか過ぎず、音響特性に際立った変化を与える要素とも思えない。プレゼンテーションに於いては、このボディ部の加工に費やされる様々な手間についてが強調されていたが、その為に価格が上がってしまうのであれば、寧ろボディ素材をポリカーボネート等に変更する事で価格を抑えるべきなのではないか、と感じた。(マグネシウム・ボディを採用する事で、TENORI-ON の外見が玩具と混同されることを極力避けたいと云う意図は強いようだ)カラー・ヴァリエーションによる展開にも期待したい。(定価85,000円くらいで、例えば "TENORI-ON lite" のようなものが発売されたら一気に普及するようにも思う)