夏目漱石『行人』を読み終えた。今までは序盤を退屈に思って、何度か読むのを断念していたのだが、改めて読み直してみると、今度は中盤まで上手い調子で読み進めることが出来た。だから残りはその惰性で読み切った。否、後半の話にはぐいぐいと引くような力があって、寧ろ飽きずに面白く読めた。新聞小説だからか、一節々々ごとに節くれてぶつ切りのようである。全体としても大きく四つに分たれている。だが今になってみると、あのバラバラな具合が善いのだと思った。結末の、特に纏まるでも救われるでもない具合が善いのだろうと思った。結末の筆致にはファニーな雰囲気が漂っていて、この物語を滑稽譚として読むことを充分に可能としているのだ。
「私が此手紙を書き始めた時、兄さんはぐう‥寐てゐました。此手紙を書き終る今も亦ぐう‥寐てゐます。私は偶然兄さんの寐てゐる時に書き出して、偶然兄さんの寐てゐ時に書き終る私を妙に考えます。兄さんが此眠から永久覺めなかつたら嘸幸福だらうといふ氣が何處かでします。同時にもし此眠から永久覺めなかつたら嘸悲しいだらうといふ氣も何處かでします」
[夏目漱石『行人』1913年]
December 10, 2008
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時刻: 23:42
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