November 30, 2008

untitled

 Y君と、それとTさんとも待ち合わせて雑司ヶ谷霊園を暫く散策した。池袋でTさんとは別れて、それからY君と青山霊園に向かった。墓地に着くと、陽は傾き始めていた。Y君は「俺たちは天才だ!」と言ってしきり興奮していた。確かに尋常ならざるシチュエイションだろう。冬に差し掛かり、夕暮れになろうという時間に、男二人で、然も人も疎らな墓地を悠々と散策しているのだから——継いで二人にはここに立ち寄る特に明らかな目的もないときている——畢竟俺たちの天才は当然だった。我々は快活に笑った。並み居る過去の偉人たちは皆親しく旧い友人で有るかのように私たちは振る舞った。段々と陽が落ちて、墓石の垂直性がさも明白なもののように現れだした。影は真横に伸びる。墓石の陰を浸していたものが段々と横倒しになってくる。もはや墓石の文字を読むことも適わない。表面だったものが、気付けば内実へ変じている。数多あまたの石、真に硬い充実体らが我らの天才を囲っている。皆陰であり、地面もやはり影である。或いは私の手を浸すものや影だったか陰になったか——。こうなれば遠く街並の端の、文明の灯がより明るいものとなってくる。陽の当たる場所はもう地面に点々と少しばかりしか残されていなかった。やがて全てが真っ暗になった。辺りは夜になった。