June 12, 2009

untitled

帰宅して鉄のドアーを開くと、足下で黒い猫が身を翻したようにわたしは錯覚した。——猫が? だがそれは開きかけたままドアーに立て掛けてあった黒い折り畳み傘の容姿だった。が、それからわたしは、足下に絶えず黒猫のまとわりつく幻覚に囚われ始めていた。のみならずその黒猫に餌を与えたい欲望に駆られ始めてもいた。夜、床に就く前に、台所の板の間の上にミルクを薄く張った皿と焼いたニシンの幾つかをそっと置いておくと、朝目覚めたときにはそれらが僅かながら、とはいえ確かに減っているかのように思えて仕方がない。