September 15, 2008

untitled

 口を噤めば、世界で最も早く耳に届いた音楽が聞こえてくる。残影の音楽とでも言えようか、その旋律は口ずさむ間も無く消えて失せてしまい、と同時に次から次へと矢継ぎ早に頭蓋を駆け巡る。だが確かに聞こえた音楽のただ影として知るような直観を掴まえ、持続の手綱を繋いでおく事は難しい。つまり、音にして鳴らすには余りにも素早く、この音楽を書き留める為には非常な記憶力を要するか、——或いは"印象の力"であるかもしれない、この二度とは繰り返し聞く事の出来ない音楽を掴まえ留めておく為には、先ず何よりも才能が、次いで客観を介さぬままに持続を勝ち得た集中力(決して「今まさにその音楽を聴いている」などという理由を手にしてはならない)を必要とする。だからこそ、不意に響き渡る音楽との度重なる別れを惜しむよりも寧ろこの期に満ちた stimmung 気分を受け入れると云う事が、直観の響きが降り注ぐ為の歓待の礎となるように思われる。