February 19, 2008

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 近所の大型中古本量販店にて、おそらく多摩美術大学(八王子校舎)出身者にとっては最早"聖典"とさえ言い得るであろう漫画、沙村広明『おひっこし』を購入する。つまり、やっと買う気になった。
作中の大学は沙村の出身校である多摩美術大学八王子校舎がモチーフとなっており、そして実際にも、かなり正確な描写によってその再現が試みられている。また、大学への最寄り駅である「橋本」駅近辺から野猿街道沿いに「聖蹟桜ヶ丘」までの多摩地区特有の空々しい風景が散見される。そして物語の冒頭から、一般的とは言い難い独特の(美大生らしい)服装を身に纏った人物が多数登場する為に、私たちは増々「これは美術大学を舞台にした物語だろう」と考える。が、102頁左下のコマにある「文学部」のテロップによりその想像は見事に裏切られるのだ。これは、各所に尽くされる"いかにも美術大学臭い雰囲気"の描写が読み手である私たちに醸成する美大生としての親近感を見事に打ち破ってしまう瞬間でもある。(ここで一同、爆笑する)
けれども、この作品を読むに付けて必ずと言ってもいい程に私をしんみりとさせるのは、芸術学科棟とH棟(プレハブの建物)との間から遠くに見える南大沢の風景(54頁中段)だろう。と云うのも私が多摩美術大学に進学した当時は鑓水周辺の都市開発が中断しており、整地された区画が荒れ野となって延々と南大沢の公団住宅群へと続くのを眺めながら、私はその風景に対して密かに「世界の果て」を感じていたからである。この漠とした景色の最中に、あの場所に居た誰もがまるで孤独感にも似た「私」と云う自意識の在る事をひたひたと共有していたのではないか、と思えばそれは随分と感慨深いものでもある。だが、先の2つの建物は今となってはもう跡形も無い。
類似した感銘を私に与える作品として木尾士目『げんしけん』が挙げられる。

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その他に買った本は、島田雅彦『彼岸先生』、筒井康隆『七瀬ふたたび』。(この2冊はどちらも買い直しである)
BankARTにて『REVIEW HOUSE』(創刊号)が先行販売されているようだ。早く読みたい。