March 12, 2008

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 Kant, I.『判断力批判』を読み直して——カント氏の言う事は、その部分々々に於いては非常に簡潔で、初見に於いても理解に難しく無い。が、彼の著作を読む上で肝要な事はそれらの一つ一つを総合し巨大な概念体系として理解する事であり、その為には他の著作——即ち、『純粋理性批判』と『実勢理性批判』——を含めた「三批判」の全てを網羅する必要がある為に多少の訓練を必要とする点が、その読解に後世の多くの人々が惹き付けられ又その理解に悩んだ挙げ句に挫折する原因ともなっている。だがその余りの甚大さ故に、読み直す度、新たな発見に巡り会う事が出来ると云うのが「三批判」に於ける魅力である。そして読みこなす迄に屢々その解釈や理解の為に翻弄されるのも確かではある。だから読み手に対して先ずは忍耐が、次に時間が必須とされる。けれども若者には忍耐が欠けている、老人には時間が欠けている。それ故に読み手に対しては(結局は何についても同じであるが)彼の著作に取り組む為のちょっとした才能も要求される、或いは中年の時分この著作に出会う為の機会に恵まれる必要があるかもしれない。
 又、デリダ氏も言うように、『判断力批判』は「三批判」を総合する要の著作である(Derrida, J.『パレルゴン』)。残りの二批判についてはDeleuze, G.『カントの批判哲学』と Kant, I.『プロレゴメナ』とを併読する事で足りるとしても、やはり『判断力批判』についてはそれ自体に当たらなければならない。カント晩年の余りに美しい著作である。